さしより備忘録

簡単な世界じゃないからワクワクするね

ミュージカル「ハル」のあらすじ

薮宏太くんが主演のミュージカル「ハル」を見てきました。物語がすごく良く、忘れたくないのであらすじを起こすことにしました。見終わってすぐ文字を打ち込んでます。ネタバレを含むので、観劇前の人はご注意ください。



【登場人物】
・石坂ハル
心臓移植をし、奇跡の少年と呼ばれる。自分に生きる価値があるのかと悩み、生き辛さを感じている17歳の高校生。真由と出会いボクシングをすることで変わっていく。

・真由
最近この町に引っ越してきたボクシング好きの少女。口が強い性格ゆえ、学校でいじめにあっていた。

・母親
ハルのことを誰よりも思うあまり、過去に囚われている。旦那が早くに亡くなり、女手一つでハルを育ててきた。

・修一
ハルの幼馴染で親友。サッカー部に所属している。ハルが心臓移植をことをきっかけに、2人の間に溝ができてしまう。

・高野
高野商事の社長。正義感が強く、さびれた町を元気にしたいといつも思っている。

・神尾
神尾ジムのオーナー。土地の不正取引で運び屋をしていた過去がある。


【物語の背景】
さびれた田舎町。バブル崩壊で旅館が廃業になった。町は跡地に工場誘致をしようとするが、町の人々の思いからパラダイスワールドというショーができる広場を作ることになる。しかし不正取引で計画は頓挫してしまう。パラダイスワールドは廃虚に。15年も放置されている。



劇中歌のタイトルはパンフレットから引用しました。太字で表示します。

一幕

音楽がなり、紗幕に「ハル」の文字が浮かび上がる。
紗幕の奥にハルがいる。机に向かい、誰かへの手紙を書いているようである。


・偽りの手紙
お元気ですか?僕は仲間と楽しく過ごしています。勉強も得意です。サッカーの試合で勝ちました。


手紙を読み上げながらハルは机を叩く。
「俺は一体誰なんだ?」
手紙の中身は嘘ばかり。嘘を演じるハルはもう限界だと歌う。本当の俺はあの時死んだとハルは手紙を握りつぶした。



そこへ母親(安蘭けい)がやってくる。握りつぶした手紙を隠しすハル。前に出して半年経ったから、急いで書いてねと言う母親に書いている途中だと返事をした。「流星群、見に行くんでしょ?」と尋ねられて驚くハル。母親はハルの親友の修一(七五三掛龍也)から話を聞いていたのだ。ハルは少しふてくされながら、流星群を見に家を出た。



・流星の夜
「今夜は流星祭りだ!」と高野商事社長の高野(今井清隆)は町の人たちに声をかける。流星を見る前に願い事を考えておくんだと言う高野。高野の願いはこの町を元気にすることだ。「仕事を覚えたい」「認められたい」「自分を好きになりたい」町の人々もそれぞれの願いを歌った。


ハルも自分の願いを歌う。
自意識過剰と言われても、今夜は普通でいさせてほしい。と。




修一と友人たちは流星群を見るために集まっていた。「ハルってたまにハイテンションになるから面白いよね。」「昔からそんな感じなの?」幼馴染の修一にハルについて友人たちが尋ねる。「ハルは昔あのことがあったから…」


そこへハルがやってくる。全員集合して、流星群を待つハルたち。「流星群ってどうやってできるんだろう?」と盛り上がる友人たちに修一は流星群の説明をする。細かい宇宙のチリが集まった彗星の軌道と地球の軌道がぶつかった時、燃えて流星になる。難しい説明を聞いて「綺麗だからいいじゃん!」という友人たち。「綺麗じゃない」とハルは言う。宇宙のチリが秒速40kmのスピードで地球にぶつかる。悲鳴をあげながら発光してる。それは虚しいものだ。しかし、それ以上に虚しいものがある。ずっと軌道に乗ったままぐるぐると回っていることである。ぶつかることも出来ず回り続けることは虚しい。


突然語り出すハルの様子を見て、「回転寿司みたいだね」なんて冗談を言って場を和ませようとする友人たち。空には雲が出てきてしまった。空気に耐えられず、ハルはその場から駆け出した。






・流星の夜(再び)
流星は雲がかかって見えず、流星祭りは失敗に終わってしまった。町の人たちは残念がっている。




ハルは祖母(梅沢晶代)の家に来た。
「例の文通はまだ続けているの?」と尋ねてくる祖母。「母さんがやれって言うから」と返すと義務じゃないなら止めてしまえばいいと言われてしまう。


祖母は血圧を測っている。血圧の結果を記録するためである。しかし、何度計っても高い。祖母は結果をごまかしてノートに書こうとする。嘘を書いても意味がない言うハルに祖母は、現実は厳しいねえと言いながら、もう一度義務じゃなければ止めてしまえばいいとハルに伝えた。




・心が望むこと
やりたいことをやればいい。焦らなくていいから追いかけるくらい夢中になることを見つけるといい。と歌う祖母。

心から夢中になれること?教えてほしい。どうしたらいいのか。お前は一体何がしたいのか。ハルは自分に問いかけた。




真由(北乃きい)シャドーボクシングをしている。この町に来たばかりだと言う真由はボクシングジムがあるか尋ねてきた。女の子なのにボクシングをすることに驚くハル。女の子ではダメなのか。怒った真由は語り出す。ピアノがある人がピアニストになるのでない。ピアノに魅せられた人がピアニストになる。感動が心を動かすのだと。




・秘密の鍵〈真由〉
力強く歌い出す真由。心が震えて叫ぶ。この思いを誰かとぶつけ合えばもっと広い世界へ羽ばたける。リングの上ならそれができるかもしれない。じっとしている場合はない。命に突き動かされてだた走るのだ。


「そんなこと、あったらいいね」消極的な返事をするハル。「行くよ!」と真由の勢いに負け、ハルは真由について行った。




高野商事では社員たちが開発が頓挫した土地の話をしてる。15年前、パラダイスワールドというテーマパークが作られるも計画は中止に。不正取引が行われ町長たちが逮捕されてしまったからである。それからずっと手つかずのまま、震災の影響で崩れた状態で廃墟となっているのだ。不正取引を暴いたのは高野商事の社長の高野であった。最近働き始めた大川(田中美央)はその話を聞きたがる。しかし、禊はもう済んだと話を切り上げられてしまう。




・筋肉は裏切らない
神尾ボクシングジムに通っている大川。落ち込む前に体を鍛えようと筋トレを始める。ボクシングジムの仲間である丸い体型でサンドバッグちゃんと呼ばれる佐藤(枝元萌)と学級崩壊で小学校の先生を休職中の田中(細川洋平)も加わりトレーニングをする。



そこへハルと真由がやってくる。入会希望かと尋ねられ思わず返事をしてしまうハル。しかし、「君はあのハルくんか?」「体はもう大丈夫なのか?」と聞かれる。オーナーの神尾(栗原英雄)はハルの姿を見て立ち去っていった。





真由はハルにボクシングを教え出す。立ち方、構え方、ステップの踏み方。ワンツーワンツーと真由の指導の下シャドーボクシングをするハル。やってみて好きか尋ねられる。分からないがハルは必死に体を動かしていた。




その様子を見ていたのは修一である。幼なじみの2人は子どもの頃から一緒にサッカーをしていた。高校でも同じサッカー部に所属しているが、ハルは全く参加をしていない。ボクシングをするハルを見て、「サッカーの代わりのボクシングなのか」「これは俺へのあてつけか」と声を荒げる。2人の間には隙間があるようである。あの時のことは謝ったからまた一緒にサッカーをやりたい言う修一。「ちゃんと考えてくれよ」そう言い残して修一は去って行った。




ハルは家でもシャドーボクシングをしていた。その様子を見て母親が尋ねる「なぜボクシングなんかするのか」と。病気でしばらくやっていなくても練習すればまたサッカーができる。全部が元通りになると言う。しかし、ハルはボクシングを好きになっていた。母親は怖い顔で「神尾さんに誘われたのか」と聞いてきた。まだボクシングジムに入っていないことを伝えると母親は「父さんが死んだのは神尾さんのせいだ」と話を始めた。父親は過労死したと思っていたハルはそのことを聞き驚く。




この町は温泉が出て、大きな旅館や温泉ができ賑わっていた。しかしバブルの崩壊とともに全て廃業。町はその土地を潰し、工場を誘致しようと考えていた。そこに待ったをかけたのが神尾である。工場でなく、町のみんなが集まる劇場のある広場を作ろうと提案したのだ。その提案を最初に聞いたのは町役場に勤めていたハルの父親である。ハルの父親はきっとすごいことになると目を輝かせていたそうだ。




・時を止めた夢
どんな広場ができるか、どんなショーをするか。みんなが楽しみにしていた。
しかし、不正取引によって計画は中止されてしまった。神尾はその運び屋をしたことで逮捕された。



不正取引に協力し運び屋をしないと広場は作れない。もう町中にその夢は広がっていた。
いろんな人がアイディアを出し、みんなが町の未来を思っていた。
だから神尾は協力したのである。


商店街は寂れ、バスの路線は減り、小学校は減っていく。何もかも忘れられていくようである。



神尾が逮捕された後もハルの父親はその思いを継ぎ、広場を作ろうと1人頑張っていた。
しかし苦労の末、過労死してしまった。



父親の死の理由を聞かされたハルは母親を悲しませたくないと思う。
そして、どうせ夢は叶わないのだとあきらめの気持ちを感じるのだった。



ハルと真由はいつものベンチで会う。
母親に反対されたらボクシングを止めるのかと問いかけられ、「もう俺に構うな」というハル。


自分の人生なのになぜ自分で決めないのか。真由は家族に反対されながらもボクシングを続けていた。「うちはいろいろ特別なんだ」「もうめんどくさい」投げやりに答えるハルに真由は次々に言葉をぶつける。「何で生きてるの?死ねば良い。生きている意味なんてないくせに。」そう言ってくる真由に「そっちこそどうせはみ出し者なんだろう?」と言うハル。2人は言い合いになってしまう。




・傷つかないために〈二人〉
ハルは心臓移植をしたことを伝える。他人の心臓をもらって生きている自分にそれだけの価値はあるのか。死んだ方がいいのではないのか。



真由も自分の思いを伝える。いじめられ目障りだ、死ねば良いと言われてきた。ボクシングをして町中の人たちに否定されてきたと。

向き合い、自分の思いをぶつけ合う二人。





・傷つかないために〈ハルの脳内〉
ハルは今までのことを思い出し、おびえて頭を抱えている。笑ってやり過ごそう。目立たず、騒がず、笑っていたい。そうすればみんなから許してもらえると思っていた。心臓移植が成功し奇跡の少年と呼ばれたハルはそれ以来、人の目を気にしておびえて生きている。傷つかないように生きたい。たくさんの人に見られているようで「僕でごめんなさい。僕は母さんのために生きなくちゃ」と思うハル。




でも、ハルは真由と出会った。初めて会ったときは頭にくることを言われたけれど、真剣な目をする真由に惹かれ始めていた。こんな気落ちを初めて感じるハル。ハルと真由はお互い、世界が変わったきっかけを話し始める。



真由は初めて友達とカフェに行った。最初に料理が出てきた真由は友達を待つことなく食べ始めた。次の日学校に行ったら無視をされるようになり、いじめが始まった。



ハルは心臓移植が成功し、2年ぶりに学校に行った。そのとき母親は「あなたは誰が何と言おうとその心臓をもらうのにふさわしい」「これからなんでもできる。全部が元通りになるから大丈夫」と。しかしハルは自分の心が弱いからうまく生きられないと感じていた。その気持ちを真由に分かって欲しいと思うハル。





・君に会えたから
ハルにはずっと父親がいない。しかしずっと母親に守られて育ってきたから寂しい思いをしたことはない。サッカーをしたり、友達と遊んだり、楽しいことをしながら母親と二人で生きてきた。しかし、病気で全てが変わってしまった。



死んでしまいたかった。夢なんていらないと思っていた。
でも、ハルは真由に出会えた。口に出すのは怖いけれど、ハルは真由に思いを伝える。



ハルに応えて真由も歌う。まるで鏡を見ているようだと感じる真由。
おまえなんていらないと言われているようで、思うように生きられなかった。でも真由はハルに出会えた。




真由はハルにボクシングを二人でやろうと提案する。
ハルは「やりたい!」と答え。二人での練習が始まった。




シャドーボクシング
シャドーボクシングは自分との戦いである。命が騒ぐまま体を動かすのだ。



ハルと真由は二人で練習を始める。夢中になってシャドーボクシングをするハル。
町の人々はその様子を見て驚く。

「あの子は奇跡の少年じゃないか?」
「心臓移植したハルくんが?」

ハルはまるで人が変わったようだった。町の人々はハルに注目していた。シャドーボクシングをするハルにカメラを向ける町の人たち。
ハルを見ていると何かに夢中になっていた気持ちを思い出す。何かが気持ちをかき立ててくるようである。


盛り上がる町の人たちの中、修一は冷めた目でハルを見ていた。





真由にリングに上がり試合をすることを提案される。ハルはもう一度誰かを信じて、本気でぶつかり合いたいと思っていた。試合をするには神尾ジムに入らなければいけない。ハルは「神尾さんに頼んでみる!」と駆け出して行った。




ハルの祖母の家に高野が来ている。
高野は町を元気にするためにいろいろなイベントを企画してきたがいつも失敗。流星祭りも失敗だった話をする。



この町はバブルの崩壊、パラダイスワールドの計画の失敗、震災と暗い出来事が多くあった。さびれてしまった町を元気にしたいという高野の思い。高野は誰よりも正義感が強く、見て見ぬ振りをできない性格であるため、パラダイスワールドの不正取引を暴いたのだった。しかし、ハルの父親は過労死をしてしまった。最後の1人になっても夫を応援してきた母親。その傷は癒えていない。




ハルにはボクシングという夢中になれるものが見つかった。しかし、ハルの母親はまだ過去の檻の中にいる。祖母はそのことを心配していた。


そこへハルの母親がやってくる。ハルが家に帰ってないから祖母の家に来ていないか探しに来たのだ。





ハルが神尾と一緒にやってきた。母親に手作りのチケットを渡す。そして神尾さんにお願いしてボクシングの試合をすることが決まったことを伝える。試合の日は心臓移植をした日。ちょうど5年目の節目に試合をすることをハルは自分で決めた。




ハルは今までの思いを母親に伝える。
ボクシングの試合をして、生まれ変わりたいと思うハル。心臓移植をしたけれど、それからハルは生きることに悩んでいた。母親の前で楽しく生きていることを演じてきたハル。でもずっと上手く生きられないと感じていた。



ハルは心が弱いのだと自分を責める。つい考えてしまうのだ。自分に生きる価値があるのか。だからハルは死にたいと思っていた。何かの拍子で誰かが殺してくれないか、事故に巻き込まれないかと。ドナーに申し訳ないと思いながら生きていたハル。




・命の鍵<ハル>
でも、ハルはもう違う。こんな気持ちは初めてだった。

本当にやりたいこと、それはボクシングの試合の先にあるのだ。リングの上で気持ちをぶつけ合えば、もっと広い世界に行けると明るく力強く歌うハル。


ハルは試合に向け、シャドーボクシングを始める。






二幕

・ハル
ハルがシャドーボクシングをしている。
真由は時間を計ったり、アドバイスをしながら一緒に練習をしている。



ハルは変わった。初めて会った時はうじうじして、みんなに置いていかれるような人だった。不器用だったハルが、自分を手に入れていく。その姿に目を奪われてしまう。
しかし真由は不安になっていた。ハルと近づくほど、遠くなるような気がしているのだ。




・スポーツを!
町の人たちは男も女もみんなストレスを抱えている。ひとりひとりに悩みがあるのだ。生きるため、耐えて日々を過ごしている。それがこの町で生きるコツだからである。しかし、みんな自分を変えたいと思っていた。どうすればいいのか分からない。



高野はそんな町の人たちのために町を変えたいと思っている。しかし、高野もどうすればいいか分からなかった。



そんな町の人たちの間をハルが駆け抜けていく。ハルの姿を見て、町の人たちは気がつく。ハルがボクシングで変わったように、スポーツをすれば何かが変わるかもしれない。スポーツをやってみようと思う町の人たち。



高野は町のオリンピックをすることを提案する。ひとりひとりが挑戦し、輝けるイベントをしたいと言う高野。



イベントの委員長は神尾だという高野。
神尾は元々ボクシングのチャンピオンだった。この町のヒーローで、みんなの憧れの存在となった。それは15年前の話である。
高野は後悔していた。不正取引を暴いた時、そこに神尾がいることを知りながら通報したのだ。町のヒーローである神尾に嫉妬する気持ちがあったことを認め、謝る高野。




・小さなオリンピック PART1
高野の願いはこの町を元気にすることだ。今こそひとりひとりが誇りを持って戦える町のオリンピックをしたいと歌う。



高野の思いを聞いて、次々に賛同する町の人たち。「サンドバックちゃんもやるよな?」と声をかけられ佐藤は「私はサンドバックじゃない!!」と声をあげた。



佐藤は高野から男が殴りたくなるような見た目だからという理由で、サンドバックちゃんと呼ばれていた。本当は嫌だった。そんな風に呼ばないでほしい。佐藤は初めて自分の思いを本人である高野に伝えることができた。思っていたよりも簡単なことだったと晴れやかな表情で言う佐藤。高野は初めて佐藤の思いを知り謝罪した。




・小さなオリンピック PART2
勝手に卑屈になってこんなはずじゃないと言い訳をしてきた。悲しみがあるから分かることがある。もう一度夢を見るために歩き出そう。



ハルを見るたびにあの日の夢を思い出すようである。誰もが自分に戻れる気がしてきた。




神尾は町のオリンピックの委員長をやることを決めた。死んでしまったハルの父親のためにも、この町を元気にするためにオリンピックを開催するのだ。




一緒にやろうと声をかけられるハル。しかしハルは「そういうのは合わない」と断る。ハルは試合がしたいだけだった。注目はされたくない。ハルは心臓移植をした時に注目の的になってしまったことがトラウマになっていたのだ。




・心が望むこと(リプライズ)
ハルには真由がいればよかった。真由に近いものを感じているハル。2人でいれば満たされる。真由さえいればいいと歌うハル。




それを聞いていたのは幼馴染の修一だった。
「連絡無視するなよ。俺たち親友だろ?」という修一は来週、友達と一緒にパラダイスワールドに廃墟ツアーに行くことを伝える。まもなく取り壊されるパラダイスワールド。「父親が最後まで作っていたものを見ておいたほうがいいだろ?」と言う修一。




「もう俺に気を使うな」と言うハル。修一はハルと話したことをいつもハルの母親に伝えている。ハルの友達でいようとする修一にそれが怖いと伝えるも、修一は「ちゃんと来いよ」と強く言い残して去っていった。






ハルと修一たちは廃墟になったパラダイスワールドに来た。劇場になる予定だった場所にはたくさんのものがあり、ゴミ捨て場のようになっている。不気味な雰囲気に怖がるハルたち。



・時代の墓場
急にゴミが動き出す。幽霊たちが踊り出し、ハルたちに襲いかかってきた。逃げ回るハルたち。ハルは幽霊たちの中に真由を見つけた。「何やってるんだ!ずっと探してたんだよ!」と真由に呼びかけるも、真由は幽霊たちの中にいるままだった。



忘れられ、捨てられたものたちが集まるパラダイスワールドの廃墟。「お前は何を捨てたんだ?」と問いかけ、襲いかかってくる幽霊たち。



パラダイスワールドから逃げ出したハルたち。計画が中止になったことは15年も前のことだった。自分たちには関係がないと言う友人たちに、「本当にそれでいいのか?」とハルは語り出す。



ハルと修一は小さい頃からずっと仲良しだった。日が暮れるまで毎日遊ぶ仲だった。しかし、ハルが心臓移植をした時、修一はこっそりお見舞いに来て「治ってもチームに戻るな」と言った。ハルは修一よりサッカーが上手だった。自分がレギュラーになれないと思い、ハルにそんな言葉をかけたのだ。



修一はその償いでずっとハルの親友を続けていた。もう親友ごっこはやめたいと言うハル。



ハルはボクシングを始め、今では町のヒーローになった。町のオリンピックのメインイベントはハルの試合である。有名になったハルを見て「もう俺は用無しになった」と思う修一。「そんなに最低だから海外移植をするために何億も集める人間か?って言われるんだよ!」と修一は言う。国内でドナーが見つかってもハルがもらっていいのか?と言う人がたくさんいた。



修一はハルのために毎日商店街で募金を集めていた。ハルの母親に頼まれた親友でいた修一。だから誕生日会のために友達を集めた。



その話を聞いてハルは「いいやつになれて気持ちよかったんだろう?」と声をあげた。




・ずっと怖かった
ハルと修一はお互いの思いをぶつけ合う。
子どもの頃は良かった。2人でサッカーをしていればそれで楽しかった。心の奥底から通じ合える特別な友達だった。


ハルは何度も考えた。自分がダメだから、いつ友達の価値がないと言われてもおかしくない。だからずっと怖かった。だからもう親友をやめたいと言うハル。


修一はハルに「俺の気持ちを考えたことがあるか?」と問う。修一もずっと怖かったのだ。
ハルが病気になって怖かった。手術が成功した時は初めて嬉し泣きをした。しかし、すぐ怖くなった。ハルはサッカーのスターだった。ハルが戻ってきたら、今度は自分に価値がなくなるのでないか?と思う。ハルを見ていると修一は怖くなった。次はお前の番だと言われている気がしていた。だからずっと怖かった。




ルサンチマン
ハルが会場に来ていない。高野社長や神尾、母親は心配していた。


そこに高野商事の社員がハルのことがTwitterで話題になっていると言う。心臓移植の時に話題になったハルは人々の注目の的だった。


やっと目標を見つけたハルに、心無い言葉をかけるのか。高野たちはハルの気持ちを心配する。


社員はハルの心臓移植の時の話をする。ハルのために募金を集めていた。しかし募金を他のことに使った方がいいと思っていた人はたくさんいた。社員もその1人である。実家が福島である社員は募金がハルではなく、震災の復興に使われるべきだと思っていたことを告白する。今だって何が町のオリンピックだと思っている人はきっといると言う社員。そんな人たちの気持ちの捌け口がハルになっているのだと。



町の人たちの声が聞こえてくる。「あのハルが試合?」「メインイベントがなるのか?」「いっそボロボロになればいい」ハルを笑い者にすることを想像し、母親は頭を抱える。



・最後の一人
ハルを守らなくてはとハルの母親は思う。
死んでしまった夫に問いかける。傷つく前にとめればいいのか、背中を押してあげればいいのか。どうすればいいか分からない母親は悩む。



ハルはいつもの場所で真由に会う。
しばらくいなくなっていた真由に「真由がいなくちゃだめだ」と言うハル。真由はハルに置いていかれたと感じていた。町のヒーローになっていくハル。しかしハルは何も変わっていない。周りの人に変わったと言われることに戸惑っていた。それを聞いて「自分から逃げちゃだめだ」という真由。



・ひとつ
真由も半年前初めてボクシングの試合をした。結果はボロ負けだった。でも、本気でぶつかるのは魔法のような時間だった。ハルにもそれを感じて欲しいと思う真由。私たちは一緒に生きている。ひとつだと歌う真由に励まされ、ハルはボクシングの練習を始めた。



・開会ソング
町の人たちはオリンピックで盛り上がっている。ついにこの日が来たのだ。様々な種目が行われみんなが輝いていた。


・試合
ついにメインイベント。ハルの初めての試合である。ハルの相手は隣町の高校生。強そうな相手に心配する町の人たち。コングが鳴り響き、みんなに見守られる中、試合が始まった。必死に試合をする両者。ハルは必死に食らいついていた。

しかしハルは相手のパンチがヒットし、試合に負けてしまった。リングから降りたハルを讃える町の人たち。しかしハルに向けられたのは多くのカメラだった。次々と焚かれるフラッシュ。ハルはみんなの見世物であった。ハルはその場から逃げ出す。



ハルは座り込む。そこに真由がやってくる。綺麗な夕日が出ていた。ハルは「消えたい」と思った。「黙ってろよ」と言うハルの横で真由は話し始める。


夕日が沈む向こうの山を越えた町で5年前ボクシングの試合があった。それは真由の初めての試合だった。ガムシャラに戦ったが、負けてしまった真由。学校の人たちに嘲笑う顔が浮かび消えたいと思った。


しかしその時、突然全てが止まった。真由の時は止まり、その心臓は移植された。5年前の今日の話だ。


真由はハルの胸を指して「それ、私の心臓」と言った。真由は5年前に死んだと言う。突然のことに驚くハル。やっとやりたいことを見つけたのに死んでしまったことが真由はずっと悔しかった。


ハルは自分が真由の代わりにやると言う。
試合に負けて恥ずかしいから今度は真由をを言い訳にしてると指摘される。ハルは自分の弱さを認め真由を抱きしめた。真由は「ハルはもう大丈夫だよ」と言い、抱きしめる腕を解いて歩き出した。「行くな!」と言うハル。しかしもうハルの目に真由は見えないようである。空はもう夕日が沈み夜が近づいていた。



・いのちの音
2人でひとつずつ胸の傷を教えあった。切ない思いも愛しく、全てが宝物だと真由は歌う。


ハルは真由に出会えて強くなれた。
触れ合えなくても2人はずっと一緒にいる。


ハルは心臓に手をあてる。命の鼓動が聞こえている。真由はハルとともに生きているのだ。




・娘への誓い(前半)
山の向こうの町で真由の両親はお店を営んでいた。
真由が死んで5年が経った今日。2人は真由の写真を見ていた。ボクシングでの事故は許せないけれど、真由の心臓がどこかで生きていることを思い日々を生きていた。


そこへハルがやってくる。ハルは自分が心臓をもらった石坂ハルであることを伝える。


真由の両親はハルの顔が怪我をしていることに気がつく。ボクシングの試合をしたと聞いて、娘の真由もボクシングをしていたんだと喜ぶ。


しかし両親はハルがサッカーをしていたと思っていた。今までハルは心臓をくれた真由の両親に手紙を送っていた。サッカーをしていること。クラスの人気者なこと。勉強を頑張っていること。それは全て嘘だったとハルは告白する。


真由の両親は驚き、怒る。「帰れ」と言われるもハルは本当の気持ちを話す。


ハルは心臓に見合う人間なのか、その価値があるのかずっと悩んでいた。そのうち本当の自分はもう死んでしまったと感じてるようになった。

真由の両親に送る手紙に嘘を書き続けたハル。嘘を書くほど本当の自分が死んでいくようだけど、嘘を書かないと心臓をもらって生きるような人間の価値がない。そう思って書き続けていたのだ。


ハルの思いを知り、真由の両親はハルになぜボクシングをするようになるのか尋ねた。


ハルはある人の影響でボクシングを始めた。かっこよくて、やってみたら楽しかった。ボクシングは1対1の勝負である。本気と本気がぶつかるのがすごいと思った。試合は負けてしまったけれど、またやりたいと思うハル。ぶつかってみなければ分からない。何かが変わるかもしれないから。



真由の両親はハルの姿を見て微笑んでいた。そしてひとつお願いをした。「心臓の音を聞かせてほしい」と。



・娘への誓い(後半)
真由の両親はハルの胸に耳を当てる。動いている心臓の音を聞き、これからも精一杯生きていこうと歌う。後ろでは真由が両親の姿を見守っていた。



・決意
ハルはまっすぐと立ち、前を見つめている。
自信がないけど、逃げない。ぶつかりながらも突き進んでいきたい。命を抱えて生きていくのだ。


感想

あらすじを起こしたらとても長くなってしまいました。ミュージカルハルが最高で思いが止まらない。


この物語の主人公ハルはずっと生きることに悩んでいる青年です。自分の生きる価値が分からず、夢中になれることもないけれど、母親や手紙の上では楽しく生きてる自分を演じ、その差に苦しんでいました。


しかもハルはみんなの注目を浴びやすい人です。さびれた田舎町の町の人たちにとって、心臓移植をして生きている少年というのは分かりやすく人と違ってネタになるのでしょう。


だからこそハルは注目されたくない、目立たないように生きたいと人の目に怯えて、より生き辛さを感じていました。


一方で町の人たちも生き辛さを感じているようでした。バブルの崩壊、パラダイスワールドの計画の中止、震災と悲しい出来事が多く、どこか諦めたような、何かに夢中になることなく日々を生きている人たち。劇中歌「スポーツを!」では、男女に分かれ、それぞれ不満を歌います。女の人たちはストレスは刻んで野菜炒めに入れて食べてしまえ。男の人たちは愚痴は焼酎に溶かして飲み干してしまえ。と歌います。不満に立ち向かうことなくやり過ごす。それがこの町で生きるコツだと歌う。これがこの町の人たちの特性を表しているように感じました。


高野商事の高野はイベントをすることで町の人を元気にしたいと考えています。しかしいつも失敗に終わってしまう。丸い体系の佐藤をサンドバッグちゃんと呼んでいるように、高野は無意識のうちに相手を傷つけてしまうところがありました。そんな姿を見てハルの祖母は本当に傷付いている人にはそんなことでは心に届かないと言います。本当に町の人が楽しめるイベントには、人々の気持ちを考えることが必要なのだと言う祖母の言葉は、この町の人たちの生きることに精一杯な様子を示しているように思います。


ハルは真由と出会い、ボクシングに夢中になる過程の中で自分と対峙し、生きる意味や命の価値を見つけていきます。ハルは自分が弱いからといつも自分を責めていました。一方で本当の気持ちを誰かに知ってほしいとも思っています。真由との出会いは本当の気持ちを話せる相手との出会いとなりました。二人は生き辛さを感じていることを打ち明け、お互いの気持ちをぶつけ合います。ハルにとって誰かとぶつかるという経験が変わるきっかけのひとつになったように思います。


ボクシングに夢中になっていくハルは変わっていきます。ボクシングは誰かと本気でぶつかり合うスポーツです。ハルは自分の気持ちを他の人にぶつけることができるようになっていきます。ボクシングの試合を決め、母親に自分から報告するハル。そこでハルは心臓移植をしてからずっと生き辛さを感じていたこと。そんな自分から生まれ変わりたいことを初めて伝えます。その後ハルは親友の修一と気持ちをぶつけ合います。歌で力強く表現されたハルと修一の対立シーン。自分の気持ちを言えなかったハルが修一に気持ちをぶつけ、それに応えて修一も本当の気持ちを伝えます。ハルは少しずつ人に気持ちを伝えることを経験していきます。

ハルが変わっていくことで、町の人たちも変わっていきます。町の人たちもみんなが抱えている生き辛さ。変わるために何もしない大人たちの中、ハルが夢中なってボクシングに取り組む姿に影響されていくのです。高野社長へサンドバックちゃんと呼ばれていた佐藤が本人にやめてほしいと気持ちを伝えたり、ハルの様子をみてスポーツを始めてみたり。ハルが町のヒーローだと言われるのは、自分を変えようとする姿にみんなが惹かれているからなのだと思いました。


ハルが生き辛さを感じるひとつの原因に、嘘の自分を演じていることがあります。心臓移植をされてふさわしい価値のある人間であるために、ドナーの両親に嘘の姿を書いた手紙を送り続けていました。誰かに気持ちを伝えることができるようになったハルは最後、真由の両親に会いに行き今までのことを全て告白します。自分の姿を見つめ、本当の自分になるために真由の両親に謝罪をし、これから生きていく決意をします。嘘をついていた過去の自分に蹴りをつけ、自分が生きている価値を認められるようになりました。


ハルという物語は本当にどこかの町の出来事のようで、現実味を感じるからこそ話に引き込まれてしまいました。簡単に言ってしまえば、重い。ハルがかわいそうで見てられない。試合に負けてもカメラを向けられてしまうシーンは現代の闇を感じました。重いのに引き込まれてしまうのは現実的で話のどこかに自分を感じるからだと思います。生き辛さを感じている、自分の気持ちに蓋をしてやり過ごしてる。もしかしたら自分もあの寂れた町のひとりなのかもしれない。誰もが感じる気持ちが舞台の上にあったように思います。


この物語に引き込まれてしまうのは、何よりも薮宏太くんの演技力・歌唱力があると思います。
専門的なことは分からないけれど、薮くんは感情を歌に乗せることがとても上手だと思います。怒りや不安、気持ちが強くなるときそのまま声量が増すところの迫力がすごい。一幕最後の「秘密の鍵〈ハル〉」では明るく、表情も晴れやかで、自信がないハルの姿との差に驚きました。伸びやかで綺麗な歌声の中に感情が見えるように思います。どの曲も表情が違う。技術がものすごくあるんだと思います。コンサートの薮くんじゃない。ミュージカルの薮くんでした。


七五三掛龍也くん。昨年「今を生きる」を見てお芝居ができる子だと思っていたけれど、歌があんなに上手なことを初めて知りました。薮くんと対立して歌う「ずっと怖かった」。細くてかわいいしめちゃんが力強い歌声で歌っていてぞくぞくしました。この舞台で一番高い感情のシーン。ぶつかるを体現するシーンに負けない、しめちゃんの歌唱力がすごいと思いました。


長々と書きすぎて何が言いたいのか分かりにくいですね。総じて言えることはミュージカル「ハル」が最高だということです。薮くんの歌がうまい。顔がいい。シュシュと言いながらボクシングをするところがかっこいい。ずっと薮くんが舞台に立ってる姿が見れてマジで最高。物語が好きなんですけど、やっぱ薮くんが好きですね。薮くんの舞台がまた見たい!

桜が咲く春にハルが見れてよかった。新しいことがスタートするこの季節。自分の生きる価値を見つけて生きていこうとするハルに希望をもらえたように思います。



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