さしより備忘録

簡単な世界じゃないからワクワクするね

井上瑞稀とジャニーズの自我


私は人間としての自我の他に、ジャニーズに入った子にはジャニーズの自我があるような気がしている。



首も据わっていないと形容されるようなJr.たちが、ある瞬間から瞳の奥に意志がある目をして踊り出す。この時、ああ自我が芽生えたなぁと思う。最近では子役出身のちびっこも増え、入った時からカメラアピールというものを知っている子たちが多い。それはそれでかわいく、元気いっぱいに踊る姿は愛おしいが、私はあの何も分かってない顔して踊るJr.が好きだ。


井上瑞稀くんは8歳の時にジャニーズに入った。幼少からジャニーズとして生きる彼を私は「ジャニーズの純正培養」で「純血」だと思っている。そんな瑞稀くんがジャニーズの自我を持ち、あの競争社会で生き残りそして20歳を迎えた。


ただの子どもがジャニーズになる時

入所当初、瑞稀くんは全くの子どもだった。PV撮影に、踊りだと思ったら歌だったと答えるくらいに何も知らないまま活動をしていたように思う。雑誌の撮影では、鬼ごっこや隠れんぼで遊び、お菓子をもらって帰る。取材カメラが回る中でなぜか焼きそばパンを大事そうに抱えて遊びまわっていた時もあった。


ステージでも素直な子どもに見えた。JUMPのコンサートでは落下してきたハートに夢中になって移動に遅れたり、立ち位置が分からなくなり迷子になることも。分からない振りは横にいる人をがっつり見てカンニング。パフォーマンスを見せるということがまだ理解できていない、楽しいから踊っているという様子だった。


しかし、ジャニーズは毎年新しいJr.が入り、楽しそうに見えるが競争社会。横一列で踊っていた仲間は減り、瑞稀くんはちびっこの中から一人だけ先を行くことになった。雑誌などのインタビューでは、当時はそのすごさが分かっていなかったと語っている。ドラマもCMもものすごいことなのに本人にその自覚がなかったそうだ。何ともマイペースな瑞稀くんらしいともいえるし、変化が当たり前の世界でまだ子どもだった瑞稀くんには理解ができなかったのかもしれない。


真っ赤なほっぺたでぴょこぴょこ踊っていた瑞稀くんも10歳、11歳になるにつれて瞳に光が灯った。立ち位置の良さもあるが、叱られ切磋琢磨する中でパフォーマンスへの意思が芽生えてきたように思う。ジャニーズは子どもでも容赦がない。ドキュメンタリー番組では、ライブのリハでちび!と呼ばれ走って集まる瑞稀くんたちの映像があったり、マンションの振りが揃っていないと叱られる場面もあった。周りが叱られ、自分も叱られながら集団として踊る。その中でも前後の細かな争いはあるだろう。


瑞稀くんと瞳の光

瑞稀くんは優等生だ。綺麗なボーイソプラノでありとあらゆるジャニ舞台の弟や子役をこなし、軽々と決めるアクロバットで見せ場を作る。ドラマもCMも出て、ちびっこの中で抜きんでた存在だった。本人の負けず嫌いな性格からか、新しいものを習得するのも早かった。ローラースケートもジェイボードもできる。そんな瑞稀くんはスタッフさんからの信頼が厚かったようだ。瑞稀ならできるよなと言われたエピソードや、SMAPの中居くんがキスマイのライブに潜入した時はその前を走るよう指示をされる場面もあった。瑞稀くんはなんでもできるいい子だ。


でも私は中学生の頃の瑞稀くんの目が好きではなかった。滝沢歌舞伎にABC座、ジャニーズワールド、ガムシャラと瑞稀くん個人でも同じちびっこラインの子たちともそれなりに仕事はあった。ガムシャラでは最年少として選ばれていたし、少クラではA.B.C-Zの戸塚くんとデュエットだって歌った。確かな活躍がある中、私が感じていたもやもやの原因は瑞稀くんの前に出たいという思いの弱さだったように思う。


瑞稀くんは目に光がない、とあの頃を通ったオタクなら伝わるだろうか。真ん丸で綺麗な目なのに、光が入らない真っ黒な瞳。ステージでのパフォーマンスはキラキラと輝く瞬間も多くあったが、ふとした疑問に瞳が無になる。今思えば、オーディションに一度も落ちたことがなかった瑞稀くんが初めて落ちたことがきっかけだったのかもしれない。瑞稀くんは努力家で、そんな瞳をちらつかせながらも本当によく練習をしていたと思う。ガムシャラでのファンカッションは休憩時間返上で練習をしていたし、よちよち歩きのようなローラースケートも本当に上手になった。


そんな努力をしていても瑞稀くんはずっと誰かのバックで、それが彼に染みついているように見えた。だからもう一歩前に、という感覚が弱い。かわいいかわいいと先輩たちに構われて、ライブMCでは話を振ってもらうばかり。プロとしてバック仕事を完璧にこなすJr.として、自分のキャラクターを持たない有象無象の一人に消えてしまいそうで、好きだからこそ焦りと不安からあの瞳を私は好きになれなかったのかもしれない。


HiHi Jetとジャニーズの自我

ある春の日、瑞稀くんにも転機が訪れる。中3トリオの結成だ。今までちびっこラインとして活動していた瑞稀くんが、公式に名前が付けられたグループに入る。ちびっこから彼は卒業した。このグループは残念ながら夏の終わりとともに自然消滅したが、同時に運命のグループが生まれた。14歳の秋、HiHi Jetができた。


嬉しかった。この子たちの時代がついに来ると、幼い頃から鍛えらえた4人は器用でなんだってできる。初々しくて、フレッシュで、まだ中学生の彼らはローラースケートに乗ってこの戦国時代を駆け抜けていくのだと思った。そう、時はグループ乱立時代。2015年はSixTONESKing&Princeも生まれ、Travis JapanSnow Manと、Jr.として活躍するにはグループで戦う時代が始まっていた。そこに飛び込んだHiHi Jetは、ローラースケートしか武器を持っていなかった。


バックに徹してきた彼らは、先輩を前にぐいぐいと突き進めない。ほんの1年前まで田中樹の腕枕で寝てた瑞稀くんが、強烈に喋るSixTONESと同等に喋ることなんでできない。口達者な猪狩蒼弥もまだ13歳。黄色い衣装に身を包んだ彼らはただのひ弱なひよこ状態だ。


ジャニーズにはジャニーズの自我があるというのが私の持論だ。パフォーマンスを見せるものであると理解し、その感覚を獲得した状態からさらに次の自我が生まれると思っている。グループへの自我だ。これは責任や自覚ともとれると思うが、ここではグループに対する責任感や目標を持って活動をしていくことを「グループへの自我」と呼びたい。ジャニーズは基本グループでデビューし、活動をする。長い時間を仕事仲間としてそして戦友として一緒に働くためには、所属する場所へ対しての覚悟が必要だ。その覚悟がHiHi Jetが生まれた頃、瑞稀くんにはあまり芽生えていなかった気がする。


なんといってもHiHi Jetは流動が大きすぎるグループだ。同じメンバーで同じ季節を迎えられるようになったのはここ1年くらい。4人から8人、そして4人へ戻り東京B少年と合体、さらにメンバーが増えて5人とここ1~2年でようやく数が安定した。そんな状況だからこそ、瑞稀くんはグループへの意識がそこまで強くなかった。


「グループも大事だけど結局は個人戦だと思っていた」「グループ愛はない」と前の瑞稀くんは語る。確かにJr.はいつだって競争社会。今でこそグループでの活動が目立つが、瑞稀くんが小中学生の頃は○○ラインと呼ばれた括りのJr.たちが入れ代わり立ち代わり状態だった。そして所属しているHiHi Jetも増減が激しく、瑞稀くんはそれを何とも思わなかったという。実際に目標を言葉にする時は、グループではなく個人での仕事の夢を語っていた。何度もドラマに出たいと語り、帝劇では座長になりたいという。大きな夢の中にグループの影は薄かった。


瑞稀くんが選んだもの

ジャニーズとして大きく芽吹いた自我は、戦い抜いて生き抜くために膨らんでいた。辞めていく仲間を見送るたびに、続ける覚悟が強くなっていったという。そして、東京B少年ができたことでグループへの自我が芽生えていく。


キラキラとフレッシュな東京B少年、その人気はすぐに爆発した。そのタイミングで猪狩蒼弥が骨折し、一緒に出るはずだったMステはバックにつくことに。2017年、HiHi Jetの4人は、HiHiらしさを模索し始めた。サマステではメンバーカラーにこだわり、それぞれの色の衣装を着た。秋の湾岸ではメンバーカラーの衣装ができた。自分たちらしい演出って? パフォーマンスって? 瑞稀くんの瞳が力強く光るようになった。グループへの自我が芽生えた。


グループとは? と追求し、彼らは作間龍斗を望んだ。そしてHiHi Jetsになった。瑞稀くんはこの5人をしっくりくる仲間だという。そしてグループでの夢がその口から飛び出すようになった。この5人の目標は新国立競技場でのコンサート、ビルボード1位、ノーベル平和賞をとる、そして伝説に成ること。「何十年後も5人仲良く笑っていたい」という瑞稀くん。公式サイトであるアイランドTVのプロフィールで将来の夢の欄には「みんなに愛されるグループ」になると書かれている。



瑞稀くんはジャニーズの純正培養だ。心も体も細胞までもがジャニーズに染められたエンターテイナー。カメラを狙うあざとく鋭く純度が高い笑顔、関節がなくなってしまったように踊り狂う姿、歌声だけでストーリーを想像させる歌唱力、想定外のトンチキ演出を考え付いてしまうのも、長年のジャニーズ生活ゆえであろう。


ちなみにこの話は瑞稀くんが主役なので、登場はしなかったが出てきたエピソードや場面のほとんどにシンメの橋本涼が一緒にいる。同じ年に1日違いで生まれ、入所から現在までほとんどの活動を共にしてきた二人。創作話のような現実を行くシンメだ。その橋本涼も幼少期からジャニーズとして鍛え上げられた純正培養。YJの香りを感じさせる王道アイドルとして成長し、今瑞稀くんの隣にいる。瑞稀くんが初めて落ちたオーディションを勝ち取ったのが橋本涼というのも、憎い運命だ。仲間でありライバルでありクラスメイトの時もある。そんな二人は正反対な性格ながら、出会いと別れを繰り返し共に多くの現場で戦ってきて、たどり着いた場所がシンメだった。選ばれし純血のシンメだ。


何も分からない子どもだった瑞稀くんが20歳になる。少しずつ少しずつ成長をして、大人の階段を上ってきた瑞稀くんがついに本当の大人への仲間入りだ。自分に責任が持てる年になると大人になることを楽しみにしていた君。いろんな先輩と大人になったらご飯に行こうねと約束していたので無事に叶ってほしいと思う。たくさんの人が君が小さい頃から頑張っていることを知っている。だからどうか、その夢が叶いますようにと願うばかりだ。これからも君の瞳に光がありますように。お誕生日おめでとう。